朝倉葵は、自分が溶けていくような感覚に襲われていた。
それは、LINEグループに大量の既読がつく音から始まった。
「おはよう!」「今日も一日頑張ろう!」「ランチ、どこ行く?」
無数のメッセージが、葵の意識を浸食していく。返信しなければ。でも、何を?誰に?全員に?それとも誰にも?
葵は、ただスマートフォンを握りしめていた。
満員電車の中、葵は周囲の人々を観察する。皆、小さな画面に没頭している。指が絶え間なくスクロールを繰り返す様は、まるで強迫的な儀式のようだ。
ふと、隣の女性の画面が目に入る。そこには葵自身のSNS投稿が映っていた。
「今日も一日、頑張ります! #モーニングコーヒー #ポジティブマインド」
その言葉を見て、葵は戸惑う。確かに自分が書いたはずなのに、どこか他人事のように感じる。その写真に映る笑顔が、まるで知らない人のもののように思える。
オフィスに着くと、同僚たちが笑顔で挨拶を交わしている。葵も機械的に返事をする。しかし、その言葉が自分の口から出ているという実感がない。